宮を抜け
妖し夜道に
立ち寄れば
切なく呼ぶは
妹の心
詠み人知らず
原文:遠くで虫が鳴く声がした。空は深い藍色に覆われ、次の光が静かに地面を照らしている。ときおり吹く涼しげな風が人肌をやわらかく撫でた。 白い夜着の上に珊瑚色の上衣を羽織った女は、足音も立てずに男のそばへ歩み寄った。 「哥哥」 女は、美しい張りのある声で静かに男を呼んだ。男は驚いたように女を見て、切れ長の眼を見張った。 「小姐。抜け出されてもよろしいのですか」 「いいの。今宵は皇宮を出ている女官も多いですし、残っている女官も皆、寝入っておりますから」 女は、物憂げな表情でちらりと宮の方に視線を流した。そのしぐさにはえもいわれぬ色香があって、男は動揺した。彼の記憶の中の女は、愛らしい妹のような、そんな幼さを感じさせる存在だ。それが今は、